努力とは陰でするもの?!

新卒で入社した頃の話である。

1ヶ月ほどは、毎日、研修ばかりの生活であった。

地方の支店から合流している者もいたから、毎晩のように飲み歩きもしたし、1ヶ月が終わろうとしている頃には、みんなヘロヘロに疲れ切っていた。


それでも研修中は、眠気を必死にこらえてがんばった。


ところが、みんなの中で、ある一人の存在が話題になっていた。

同期が何十人もいる中で、一人だけ、毎日、机に突っ伏して寝てるヤツがいたのである。

「信じられないよね~。マジで。何だあいつ~、サボりやがって。」

いつしか、「どうしようもない新入社員」という評価になっていった。


1年ほど経ったある日。

彼から同期入社のみんなに対して、ひとつの発表があった。

「実は、オレ、来月、会社を辞めるよ」と。

誰もが思ったのは、そっかぁ、やっぱり辞めるのか、と。


ただ、続く言葉に、みんな唖然とした。

「実は、オレ、パイロット試験に受かったから、航空会社に転職するよ」という言葉に。


そう。彼はこの1年間、ずっと猛勉強をしていたのだ。

パイロットの試験に受かるために。


実は、新宿の本社で研修を受けている間、

高層ビルの窓から見える、大空を飛んでいく飛行機を見て、

パイロットになりたいという子どものころからの夢を思い出し、

パイロットになることを強く決心したのだという。


それから、彼に対するみんなの評価は一変し、尊敬に変わった。

あの居眠りの意味も理解した。

陰で血のにじむような努力をしていたことも。


時が経ち、同期のひとりが出張に向かう際、

偶然にも機内アナウンスで気がついたそうである。

彼が機長を努める飛行機だったのだ。


今はどこの空を飛んでいるのだろう。

自分は、退職以来、再会を果たしていないが、

いつしか、彼の操縦する機に乗ってみたい。

中野 裕哲 - Hiroaki Nakano        - オフィシャルブログ