土下座の思い出

まだ若かりし頃の話。

商人として、まだまだ未熟な修行中の身だった、遠い昔のことだ。

ある社長から目をかけてもらい、とても、かわいがってもらっていた。


ある仕事を大量に発注してあげるから、ということで会社に呼び出された。

聞いてみると、150万円ほど予算を取るから、やって欲しいと。

ひとまず、3件を発注するから、見積もりを作ってきてくれと言われた。


喜び勇んで社に帰り、3件で150万円の見積もりを作成して、

後日、再び社長のもとを訪れた。


見積もりを見た社長は、いきなり、机をバンバン叩きながら、

烈火のごとく怒り出した。

「てめぇ、この野郎!!目をかけてやってるのに!」と。


理由は、値段があまりにも高すぎるから。

150万円とは、3件分ではなく、他も含めた50件ほどの分だったのだ。

私は、何を勘違いしたのか、3件で150万円の見積もりを作成してしまった。

ある意味では、勝手に儲け話や一攫千金的な夢を見てしまったのである。


私はとっさに土下座をした。

本当に申し訳ないと思い、泣きながら謝罪した。

横を見ると、同行していた後輩も同様に、床に頭をこすりつけ、

泣きながら謝罪していた。


目をかけてもらったり、親切にしてもらったとき、それに乗っかってしまうのは

最低だ。結果的にはそれをやってしまったのだ。


もうひとつ、商品・サービスには「適正価格」というものがある。

尊敬する松下幸之助先生の教えを、全くもって身につけていなかったのである。

商人としての矜持もプライドも、そのときは、なかったのだろう。


それ以来、「適正価格」をもっともっと深く考えるようになった。

自分たちがプライドをもって提供できる価格。

ただ値下げをすればいいというものでもない。

が、逆におつり(=いただいた分の価格を上回る提供価値)を返せるかどうか。

お客様が「値頃感」を感じられるかどうか。


商人として、日々、修行は続いている。

中野 裕哲 - Hiroaki Nakano        - オフィシャルブログ